非弁行為(弁護士法72条)の解釈に関する公証の結果とその効果

2024/8/21

みなさまこんにちは、あしやまひろこです。

以前の記事で紹介した通り、私的行為に関して公証人(公証役場)への公証の嘱託により、合法性・適法性または違法性の推認が得られ、またそれに関する公文書が作成されることはすでにご紹介いたしました。

今回はその具体的事例として、弁護士法72条(非弁行為)ならび行政書士法19条(非行政書士行為)がどのような範疇のものを指すのかについて、公証をした結果とその効果について紹介したいと思います。

(最終更新 2024年8月22日)


前段

筆者はメタバースに用いる3Dモデル等の取引に用いる取引約款のひな型を、友人の弁護士らとともに、プロボノやボランティアとして共同で作成しており、そのひな形は現在の日本市場においてかなりの割合の取引で用いられており、政府の示すソフトローとしても紹介されました(また政府のメタバースと法にかかわる会議の構成員も務めました)。

そのような状況であるため、当該ひな形の活用であったり、メタバース用のアバターを他のビジネスに活用したい場合、新規ビジネスにおける契約書のひな型やポリシー作成などについて、様々なご相談を受けることがあります。しかし法的なご相談に関しては、友人の弁護士も非常に多忙であるため、報酬の有無というよりも時間的な問題として、全てを弁護士が対応することは現実的ではなく、紛争案件は弁護士が担当し、非紛争案件は筆者が担当することで、相談の対応の分散化ができないかと思った次第でした。

しかし、どの程度の法的アドバイスを非資格者が行ってもよいのかについては、日弁連は事件性の不要説を唱えていることがあったり(日本弁護士連合会調査室『条解弁護士法第4版』弘文堂、2007年)、過去の判例では事件性の必要説を支持したと思われるものがあったり(札幌地判昭和45年4月24日「下級審判決例」判例タイムズ251号305頁など)と、判然としませんでした。


事前確認

そのため筆者は、2024年5月あたまに、法務省・日弁連・東京弁護士会に対して、無資格者が非紛争案件に関わる行為は、弁護士法に反するのかを確認しました。

結果として、法務省および東京弁護士会は「司法判断に委ねる」と回答し、日弁連は「一切のお答えができない」といったような回答となりました。

またこの際、東京弁護士会はこちらの事情に関心があったようで、筆者がどのような活動をしており、どのような点で困っているかについてお話すると、非常に興味深くお話を聞いて下さりました。また、これら3者から回答が得られない場合については、公証役場にて公証手続きを行うことについても東京弁護士会にお伝えしました。


公証結果

上記3者から見解が得られなかった(当事者的な意見がなかった)ため、5月半ば、行いたい行為を文書化し、当該行為の違法・無効がないかの確認を含めた公証の嘱託を、川口公証役場にいたしました。

公証人からの修正指摘等も経て、結果として5月31日に下記の文書が公証を受けました。

この文書における非弁行為の判断基準は、平成22年7月20日の最高裁判決をベース(※最高裁判決は違法の対象を示したもので、合法の対象を示していない)として、一部の弁護士において実務的に言われていた「(紛争の)予見性説」とでもいうものに基づくもので、公証人は、紛争が予見されない場合の非資格者による法的アドバイスは「違法・無効」ではないとの見解を示しました。

また、非行政書士行為に関しては、官公署に提出する書類や、権利が確定する性質の文書は資格が必要であろうが、汎用的なひな形や約款、一方的に掲示するポリシー類の作成(代筆しての提案)については、資格がなくとも「違法・無効」ではないとの見解を示しました。

※具体的な業務依頼があったため書類作成を急いでおり、表記ゆれはご容赦ください


公証への反応と効果

当該公証結果についてTwitterに投稿したところ、2024年6月以降、数多くの弁護士から、筆者に対して大量のクレームが届きました。

一例を紹介すると、表現の自由に詳しい弁護士(東京弁護士会/54期)からは、「公証人の私筆証書認証により書面記載の事業の適法性が担保されると考えるレベルの人が「予防法務」やれるんだーと思い込めるの悪い意味でスゴくない?」とのコメントがあったり、非弁対策に詳しい弁護士(福岡県弁護士会/60期)からは「私署証書って、「その文書が真正に成立したこと、すなわち、文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたことが推定されます。」というだけの文書であり、書かれている内容の有効性や適法性についてはなにも判断されるものではないんですよね。」とのコメントがあったほか、ほかにも、市民(である筆者)や公証人をバカにするような発言や、単純に法解釈を誤っていると思われる発言が多数あり、弁護士という肩書を振りかざされて半ば市民が恫喝されるような状況になっていました。

いちいち記録しても仕方がないので数えていませんが、直接的連絡・筆者の名称を挙げたもの・ほのめかし、等々をすべて含めると100名以上の弁護士が筆者を糾弾しようとしていたのではないでしょうか。

しかしその後、2024年7月に、東京弁護士会は「非弁護士取締委員会」のウェブサイトを開設し(Googleへのインデックス登録は2024年7月23日)、ここにおいて「非弁行為とは」というページを公開し、非弁行為の定義について、上述の予見性説(公証内容)を全面的に採用する立場(むしろ東京弁護士会のほうがより限定的にした)を表明しました。

つまり、東京弁護士会は筆者の作成した案に合致する内容を、結果的に全面的に採用したのです。

これについて8月、6月頃に筆者に対して厳しい言葉を投げかけていた弁護士ら20名程度に、筆者から東京弁護士会のサイトを紹介して見解を求めてみましたが、いずれからも返信は頂けませんでした。


考察

東京弁護士会は従前、非弁行為の定義は司法判断に委ねるとしていたところ、7月になって突然に予見性説を採用しました。

本当のところはわかりませんが、筆者が事前に東京弁護士会に公証を嘱託することを伝えていた通り、東京弁護士会も当該公証結果について、どこかで察知した可能性はありますし、もし当該公証を斟酌したのだとしたら、公証の結果は司法判断に類するような性質を持っていると東京弁護士会が考えた可能性もあります。

(ちなみに、東京弁護士会は2014年時点の特集記事でも、法律事件の定義を明確にはしてはいませんでした)

また、もし東京弁護士会(やほかの弁護士会)が当該公証の内容が間違っていると考えるのならば、公証に対する異議申し立ては期限なく誰でもできるのですから行えばよいところ、むしろその内容を全面的に肯定するような内容をウェブサイトに掲載したのは、とても興味深いことです。

公証の面白いところは、それまで裁判になっていないような事例でも公的な法的判断が得られる点にあります。一般的に裁判になるケースとは違法・無効が、事前に強く推認される場合がほとんどであり、そこから得られる反対解釈は限定的であるところ、公証であれば明らかに(あるいはおそらく)合法なことについても、紛争となる前に行政からの確認が得られるのです。

本件では、「公証」という行為そのもの、非弁護士による法的アドバイスの2つがポイントになるかと思いますが、そのどちらにしても、弁護士や他の士業、一般市民において有益な情報ではないかと思われます。

特に、予見性説に立てば、紛争が生じていない文書の判断はだれでも出来るのであるからして、非紛争案件であれば、AIによる契約レビューも当然合法であると推認できます。

ただ、そもそもでいえば、法学者が意見書を有償で作成するようなことは当然に行われているのであって、この公証が何か全く新しいことを証明したわけではないと思われます。(たとえ従前不明確であったとしても)法理から当然そうであることを、当然そうであると記したにすぎません。公証とはそういう性質のものであると思います。


意見

なお、上述の通り、品格や見識を疑わざるを得ないような発言を、多数の弁護士から頂戴しましたが、今のところ、これについて一切の弁明も謝罪も受け取っていません。

私は自身の考えに確固たる自信があったのでバカな弁護士もいるものだと思っていましたが(その数が多いことには驚きましたが)、もしこれが一般の他の市民だった場合、非常に苦しい心境になっていたでしょう。

つまり、弁護士の無知や傲慢によって、何ら罪のない市民が糾弾されるような状況であったわけです。

弁護士は法の実務家であって法学者ではないため、法理解に限界があることは仕方がありませんが、しかしながら、弁護士法に記載されているとおりの行動くらいは最低限してほしいです。未知の法律行為が生じたら、怒り狂うのではなく、まず冷静に物事を考えてほしいです。

というより「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」という弁護士法に定められる使命と、正反対のことをされたと筆者は感じています。

弁護士は、法学者や他の実務家(企業法務や市民活動家など)と連携して、更なる知見の創出や、より良いサービスが提供できるはずです。

アホを相手にするのもアホらしいので懲戒請求をしたりはしませんが、こういった状況が放置されることは、弁護士に対する信頼低下を招くだろうと思われます。

各弁護士会や日弁連においては、問題のある弁護士に対する法教育・法哲学教育や人間性の涵養などの、さらなる実施や改善をなされることを望みます。

また、法解釈を表明くださった東京弁護士会には感謝を申し上げます。


※私の友人の弁護士や、これまで仕事で関わった弁護士の皆様は非常に優秀で人間性も確かであり、素晴らしい方もたくさんおられます。問題のある弁護士が少数であると信じたいと思います。私自身、友人が法的トラブルに巻き込まれた場合は、各弁護士会が実施している有料相談窓口(※法テラスとは違う)を案内しています。Twitterにいる変な弁護士よりも、よほどアタリの弁護士が相談に乗って下さる可能性が高いと思います。

※ちなみになぜ東京弁護士会に最初に聞いたかというと、調べた限り非弁問題にかなり力をいれている弁護士会だと思ったからです。

※上記の通り法的な相談も業として行ってよいことが分かりましたので、コンサルやお悩み相談のご依頼のある方はこちらをご覧の上ご連絡ください。一般の方はもちろん、法律関係者からのご相談も大歓迎です。


この記事に対する反応(8月22日追記)


※吉田弁護士は当初から中立的立場で穏当な方で、こちらは一切迷惑は受けていません







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