男性向けエロ漫画と女性向けエロ漫画はどちらが多いのか?

2022/4/16

私は男性であり、普段は男性向けのエロ漫画を読んでいますが、女性向け商業BL作品を読んでみたところ思いのほかエロシーンが男性向けのエロ漫画と同じくらいしっかりと書き込まれていて驚きました。
そこで、2022年現在に流通する商業作品のエロ漫画のうち、女性向けが占める割合はどのくらいだろうかという事について調べてみました。なお市場規模ベースではなく、作品数ベースで算出しています。


エロ漫画の定義

そもそも、男性向けや一部の女性向けで採用されている「成人向け(成年コミック)」の表示はあくまでも業界の自主規制であり、各種条例で定められている基準に該当するような場合に表示する努力義務が課せられているものです。都道府県は書籍について基準に該当する場合は、いわゆる不健全図書と指定することができ、この場合は18歳未満が買えなくなるような陳列方法をする必要があります。

「成人向け」の表示は、そういった指定を受けるよりも前に、出版する側が条例をよく考えて「成人向け」の表示をして陳列方法も対処させましょうねというもの。なので「成人向け」と表示されていなかったとしても、内容がエロい漫画は沢山あるのです。

東京都や大阪府の場合は内容面による基準となっていますが、神奈川県や埼玉県の場合は客観的に「全裸、半裸若しくはこれらに近い状態での卑わいな姿態」または「性交若しくはこれに類する性行為」が20ページ以上あるものか総ページ数に20%以上を占める場合は「有害図書類(いわゆる不健全図書)」とするとも規定されています。

そのため、後述する商業BLのように性的描写を含むものと含まないものが混在しているものの、成人向けの表示が業界的になされておらずその判断できない場合は、便宜的に神奈川県や埼玉県の基準を利用して、エロシーンが20ページ以上あるか全体の20%以上がエロシーンの漫画を「エロ漫画」と定義することにしたいと思います。


商業BL漫画に占める「エロ漫画」の割合

商業BL漫画は性的描写のあるものも無いものも「BL漫画」という一つのジャンルにまとまっており、作中に性的描写を多く含んでいたとしても「成人向け」の表示をしているものが少ないです。この理由は諸説あるものの、結果として東京都等から「指定図書(いわゆる不健全図書)」と指定されるケースがあります。例えば2021年の東京都の指定図書(不健全図書)うち、商業BLの占める割合は93%(16件中15件)でした。

ただし、上記の通りこれは東京都の基準で指定されただけの件数であり、これだけが「エロ漫画」という訳ではありません。そのため、先に示した神奈川県や埼玉県の基準を用いて、商業BL漫画における「エロ漫画」の割合を推測してみたいと思います。

2007年当時に商業BL漫画と小説を併せて7000冊所有していると公表している、ちーけん氏が2008年に、1996年と2006年に出版された商業BL漫画についてその蔵書から無作為に抽出し、そのページ数と含まれれるエロページ数をカウントしたものを公表しています(*1 *2)。
それをもとにすると、1996年は神奈川県や埼玉県の基準に該当する割合は6冊/22冊=27%であり、2006年は14冊/24冊=58%となりました。

ここでは、ちーけん氏は2008年時点からみてその後10年は、エロページの割合はこれ以上増えないのではないかとも記述しています。
対して講談社のBL作品編集者は、2016年時点において性描写が多い作品がトレンドであり、過激になっているのは事実であるとコメントしています(*3)。この意見が正しいとすれば、2022年現在の商業BL漫画おけるエロペーシの比率は2006年より増えている可能性があります。

しかし2022年現在の商業BL漫画のエロペーシ数に関するデータが見当たらなかったため、2022年現在に用いる値としては少ない可能性はあるものの、今回は2006年の値を参考にして商業BL漫画における「エロ漫画」の割合は60%程度であると仮定したいと思います。



商業BL漫画、TL漫画、アダルト漫画における「エロ漫画」の作品数

2022年現在の漫画の流通は、紙の書籍と電子書籍双方が存在するため、大日本印刷が運営する「honto」に2021年内に販売開始されていると登録された、商業BL漫画、TL漫画、アダルト漫画作品の件数を調べてみました。

「honto」にて 販売開始時期:2021年のみ を選択した場合の結果は以下の通りです。
※「BL(ボーイズラブ) BL漫画」という表記は「BL(ボーイズラブ)」カテゴリ内の「BL漫画」サブカテゴリを指定したという意味です

【電子書籍】
検索条件:ジャンル=BL(ボーイズラブ) BL漫画 :18734件
検索条件:ジャンル=TL(ティーンズラブ) TL漫画 :19057件
検索条件:ジャンル=アダルト アダルト漫画 :28437件

【紙】
検索条件:ジャンル=BL(ボーイズラブ) BL漫画 :1293件
検索条件:ジャンル=TL(ティーンズラブ) TL漫画 :598件
検索条件:ジャンル=アダルト アダルト漫画 :617件

ここから「エロ漫画」を取り出すため、これに商業BL漫画のエロ漫画比率(60%)を掛け合わせると次の通りになります。
なお、TL漫画についても「成人向け」と表記されることはほぼありませんが、ジャンルそのものの定義が女性向け漫画のなかでも性的な表現に特化したものであるとされ、またセックス描写があることもその特徴とされているため(*4 *5)イコールとしました。また、アダルト漫画もイコールとしました。

【電子書籍】
検索条件:ジャンル=BL(ボーイズラブ) BL漫画 :11240件
検索条件:ジャンル=TL(ティーンズラブ) TL漫画 :19057件
検索条件:ジャンル=アダルト アダルト漫画 :28437件

【紙】
検索条件:ジャンル=BL(ボーイズラブ) BL漫画 :776件
検索条件:ジャンル=TL(ティーンズラブ) TL漫画 :598件
検索条件:ジャンル=アダルト アダルト漫画 :617件

ここでいう「アダルト漫画」は「成人向け」と表示されている漫画を示すのですが、大半は男性向けのレーベルであり、ごくわずかですが女性向けのレーベルも含まれます。

商業における男性向けエロ漫画と女性向けエロ漫画はどちらが多いのか?

hontoデータと推測値から、これら3ジャンルの合計をもとに構成比を示すと次の通りです。
このうち、BL漫画とTL漫画を「女性向け」、アダルト漫画を「男性向け」とみなすことにします。

【電子書籍】
商業BL漫画のうち「エロ漫画」:19.1%
TL漫画:32.4%
アダルト漫画:48.4%
男性向け:女性向け=48.4:51.5 でほぼ同数だが女性向けの方が僅かに多い

【紙】
商業BL漫画のうち「エロ漫画」:39.0%
TL漫画:30.0%
アダルト漫画:31.0%
男性向け:女性向け=31.0:69.0 で2倍以上女性向けの方が多い

なお、前述の通り「アダルト漫画」には女性向けもごくわずかですが含まれるため、実際の女性向けの比率はもっと多くなることが予測されます。
なお、今回は「少年漫画」「青年漫画」「少女漫画」「女性漫画(レディースコミック)」などを分析の対象に含んでいませんが、これらも同様の基準で検討した場合は、女性向けの割合が更に高まるのではないかと思われます。
また、商業BLにおける「エロ漫画」率(60%)は2006年の値を参考にしたため、これについても実際はもっと多い可能性があります。

結論として2021年の商業の「エロ漫画」は、作品数でいえば女性向けの方が多いという状況のようです。


考察

女性向けの「エロ漫画」については、商業BLもTLも「成人向け」と自主的にレーティングする動きが殆どないため、一般の書籍として書店に配架されたり、未成年でも購入することが出来る状況になっています。

とはいえ2021年に出版された商業BLの紙の本と、東京都において指定図書(不健全図書)とされた本についていえば、商業BLの「エロ漫画」全体の2%しか指定されていないので、裏を返せば98%の商業BLの「エロ漫画」は東京都の基準でいうところの不健全とは指定されていないとも言えます。また「ティーンズラブ」については2021年に東京都から指定図書(不健全図書)として指定されたものはありませんでした。

東京都は指定図書(不健全図書)を指定する際に、多角的な視点で判断をしていますが、その東京都の基準は「エロ漫画」=不健全というわけではないことがわかります(神奈川県や埼玉県の不健全図書の基準と東京都の基準が異なるとも言えます)。

honto(大日本印刷)が2021年に発表した「BL読者1,800名に聞いた!“BL(ボーイズ・ラブ)”に関する意識調査」(*6)によれば、BLを購入し始めたのは10代からが47%であると示されています。また矢野経済研究所が2016年に調査した結果では「BLオタク」を自認する消費者については、男性が30.6%含まれていることが示されています(*7)。

そのため商業BLの販売においては、少なくない未成年(男女ともに)が「エロ漫画」としての商業BLを消費しているものと推測されます。しかし、商業BLについては健全育成条例に抵触するか否かが議論になったことがあると認識していますが、それ以外では特に大きな問題が生じた様子もないようにも思います。

そう考えると「性描写」があるから直ちに不健全とか、子供が読むと問題が生じるというわけではないとも言えるのではないでしょうか。

また、想定読者としての男女をもとに不健全性を論じる事もあまり意味がないとも考えられ、BLは先の通り30.6%程度の男性愛好者がおり、男性向けの「成人向け」漫画のサブスクサービスであるkomifloでは2020年時点の女性ユーザー比率が15%以上であるとされています(*8)。

繰り返しますが、女性向け商業BLの中には一部「成人向け」の表示を行って販売するメーカーもありますが、多くの商業BLやTLの「エロ漫画」は一般の書籍として書店に流通したり、男女問わず未成年が購入できる状況でありつつも大きな問題が起きていないように思えます。その上で、出版不況においても成長(*7 *9)していることを考えると、不健全図書に指定されない程度の「エロ漫画」が書店に配架され、未成年の時から作品を「買って読む」ことが習慣化することには意義があるのではないかとも考えられます。

対して、男性向けの場合は「エロ漫画」は「成人向け」が主であるため、未成年については正規の方法で購入することが難しく、購入以外の方法に頼らざるを得ない状況ではないかとも思われます。

男性向けの「エロ漫画」も、未成年が読んでも不健全ではない程度の「ティーンズラブ」をもう少し男性向けにアレンジしたものないしは、男性も女性も楽しめるような作品やジャンルがもっと沢山登場してもよいのかもしれないなと思った次第です。実際問題、男女間の性描写があるティーンズラブも、男の子が買ってはダメということはないですからね。

URLは*4*5の最終閲覧日は2022年4月17日、それ以外は2022年4月16日
hontoの検索結果は2022年4月16日のもの
小数点以下の計算については予め四捨五入した値を利用しています
(2022年4月18日最終更新)

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文:あしやまひろこ
東京にある会社で社会研究に従事する埼玉県民。また個人事業主として各種活動も実施。北関東の大学で哲学(宗教と社会学)を学んだあと、現在は社会人大学院生として文化人類学を勉強中。ライフワークとしては、各種調査・研究・開発および文筆活動、装いと女装の研究や、香りの研究と開発、バーチャル文化へのボランティアなど。趣味は料理。

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